アーカイブズ工房 

「なぜアーカイブズは必要なのか―文書保存の意義と実態」講演会(2013年11月17日、盛岡市)


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下記の催し物に参加しました。

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国文学研究資料館・いわて高等教育コンソーシアム講演会
 「なぜアーカイブズは必要なのか―文書保存の意義と実態」
日時:2013年11月17日(日) 13:00~17:00
会場:ホテルルイズ(3階 万葉の間)
  (岩手県盛岡市盛岡駅前通り7-15)
プログラム:
第1部 アーカイブズの意義
松岡資明氏 (日本経済新聞社)
 「東日本大震災後、公文書管理は変わったか」
 大石泰夫氏 (盛岡大学教授)
 「アーカイブズと民俗学―報告書『花輪祭り』の実例から」
青木直己氏 (元虎屋文庫研究主幹)
 「ビジネスアーカイブズと地域社会」
加藤聖文氏 (国文学研究資料館助教)
 「公文書管理法を活かして記録を残す」
第2部 地域社会におけるアーカイブズ
平田輝明氏 (元栃木県小山市文書館長)
 「地域文書館の設立を振り返って-アーカイブズ未設置地域の博物館の役割」
 [体調不良のためご欠席。代わって青木睦氏から趣旨説明がありました]

 小笠原晋氏 (遠野市文化研究センター調査研究課長)
 「遠野市行政文書館の設置目的と岩手県内自治体における文書管理の現状」
青木睦氏 (国文学研究資料館准教授)
 「被災文書の保存活用と市町村における文書中間保管庫の設計」
講演者によるディスカッション 
 司会 岩手大学教授 藪 敏裕氏
問い合わせ先 盛岡大学総務部総務課 電話019-688-5555(代)

「第1部 アーカイブズの意義」はわたしの仕事にも重なるところがあったので、メモを基にして講演の概要をまとめてみました。

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第1部に入る前に、国文学研究資料館の大友一雄先生から次のようなあいさつがありました。

国文学研究資料館が資料保存にかかわるようになったきっかけは、戦後の資料保存にかかわる国会請願により文部省史料館ができたところに始まる。資料保存のための『ひとづくり』のためにアーカイブズ・カレッジを長年主催してきた。震災後、『人づくり』に加えて、資料保存のための『仕組みづくり』も必要であると強く感じている。

■松岡氏「東日本大震災後、公文書管理は変わったか」■

2011年4月、前月の東日本大震災の直後、公文書管理法施行がスタートした。同年4月12日には瀧野内閣官房副長官が「大震災の事実経過の記録資料の保存にご留意願いたい」と要請した。

その後、昨年1月ごろから震災関係会合の議事録・議事概要を作らせていなかったことが問題となった。その後さらに、明治以来閣議・閣僚懇談会の記録も作成されてこなかった事態も明らかに。

公文書管理法が施行されたにも関わらず、公文書管理委員会は出席者が足らず、きちんとした議論が行われていない。また、この間、政府各省庁から国立公文書館への公文書の移管率が低い水準でとどまっていることも明らかになっている。

つい最近の特定秘密保護法案に関わる議論の中では、防衛庁の防衛秘密は公文書管理法が適用されない領域の公文書であることが明らかになった。公文書管理法の第3条に「公文書等の管理については、他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」という条項があり、これが防衛省の公文書の扱いに適用されている。この条文を挿入した官僚おそるべし、である。

近年、大量公開請求によって行政が阻害されているという認識から、情報公開が制限されるような方向も出てきている。自治体では公文書管理条例が制定され公文書館が設置されるところも出てきてはいるが、一方で民間資料の保存機関が減ってきている状況もある。

今週は衆議院における特定秘密保護法案の審議の山場にあたる。衆議院のHPに行くと、審議の様子が中継されているので、ぜひ注目していただきたい。

■大石氏「アーカイブズと民俗学―報告書『花輪祭り』の実例から」■

専門は万葉集と民俗学。民俗学研究のなかで、アーカイブズの力を感じた経験を、秋田県鹿角市花輪地区に伝わる「花輪ばやし」を例に紹介する。

花輪ばやしとは、8月19、20日に行われる屋台行事のこと。この祭りはある時期、二つの祭りが統合されたと推測される。ところが、いつどのように統合されたのか、神社には記録はなく、地域の人々の記憶もあいまいであった。

手掛かりを探すなかで、『鹿角時報』『広報はなわ』の二つの資料に巡り合った。図書館に所蔵されていた『鹿角時報』の1957年=昭和32年6月11日発行 第506号に掲載された「お輿を二つ並らべて」と題した寄稿文と、それに続く投書(同年6月28日発行第509号)、花輪神明社総代会での議論に関する投書(同年7月11日発行第511号)から、二つの祭りが統合が検討され始めたのが昭和32年であり、実際に統合されたのは、花輪町発行『広報はなわ』 1960年=昭和35年8月2日発行第31号によって、この年1960年であることが分かった。

※大石氏配布資料(タイトルは「花輪ばやしの概要」)より。
『鹿角時報』
最初「花輪青年」という名称で青年団の会誌として大正5年(1916)に発刊。大正10年(1921)6月から「青年乃鹿角」に改称、タブロイド判とな る。昭和2年(1927)8月に「鹿角時報」に改称。昭和14年(1939)から戦時統制のため休刊となるが、昭和21年(1946)に復刊し、昭和46 年に廃刊。

民俗学は歴史学との差異化欲求から、口頭伝承をたいへん重視してきたが、それだけでは解明できない事象が存在する。この花輪ばやしの例のように、口頭伝承に文献からの情報を加えることによって、生き生きとした人々の生活の変化を描きだすことができる。

同地区の「お休み堂の迎え太鼓」は、お休み堂が使われなくなって、「迎え太鼓」も廃れてしまったのだが、それがいつのことなのか、人々の記憶・口頭伝承からでは明らかにできなかった。

この件に関しても『鹿角時報』『広報はなわ』が大きな手掛かりを与えてくれた。『広報はなわ』第31号(昭和35年=1960年8月2日発行)で、この年まで迎え太鼓が行われていたことが確認できる。昭和43年(1968)8月17日発行『鹿角時報』第1136号には地区への転入者による「お祭り雑感」という記事が掲載されており、迎え太鼓が廃れたのは昭和35年から43年のあいだのどこかの時点であることが分かる。

現代では核家族化によって家族間における伝承が困難なものとなるとともに、地域社会も職業の多様化によって民俗の伝承母体としては弱体化している。そのような状況で、民俗学においてもアーカイブズのようなものをきちんと把握する必要が生じている。

■青木氏「ビジネスアーカイブズと地域社会」■

和菓子製造販売会社虎屋に1989年入社。同社のアーカイブズ「虎屋文庫」に長年勤務の後、先ごろ退職。この10月、同文庫顧問に就任。

ビジネスアーカイブズとは、第一義的には記録を作成した企業自身のために存在する経営資源である。そのため非公開性、という特性を持つ。かつては社史を作成するために記録を保存する、という意識が強かったが、近年は広報などさまざまな社業に活用されるようになってきている。虎屋は480年の歴史を持つ会社であり、社のアーカイブズを広報・宣伝に活用したりしている。

虎屋に見るアーカイブズ保存の理念は、1945年5月の東京大空襲時に先輩たちが会社の重要記録を本社から持ち出して弁慶堀に沈めて避難させた例に表れているように思う。この件に関しては、社史『虎屋の五世紀 通史編』に記載されている。あるいは、1971年1月の社内報『まこと』第6号では当時の社長黒川光朝が「資料の整理、分類は無事故への指針である」と述べている。ちなみに、 この光朝社長が昭和48年(1973)に虎屋文庫を設立した。

現在虎屋文庫には7名のスタッフがおり全員社員である。社員総数960名の会社としては、アーカイブズ部門に配置しているスタッフは多いほうだと思う。かつては最大で9名ほど在籍していた時期もある。

さて、本日の本題は地域の近代化と鉄道・電力会社の関係である。かつて国分寺市史編纂に携わった時分、民家の蔵から東京電力の株券が出てきたり、思わぬところで企業資料に接する機会があった。

企業と地域社会の関係は、企業城下町などと言われることもあるように、大きな企業の場合地域への影響も大きい。東北の電力会社に関しては『東北電力事業史』 が参考になる。岩手県では大正4年(1915)岩手軽便鉄道が開業したほか、同年花巻電鉄も開業している(前身は大正元年に開業)。

関東の例では京王電気軌道(株)の例を見てみたい。同社は明治43年(1910)開業、大正2年(1913)府中火力発電所を竣工、同年電気鉄道も開業した。これに伴い、世田谷以西はそれまで電気がなかったのが、新たに沿線住民へ電灯が供給されることになった。大正2年の灯数は1387。昭和15年(1940) には灯数は46万5677、この年の料金収入は232万円。対して、電車収入は132万円。このように、民間企業の事業は地域の近代化に大きな影響を与え ている。ちなみにこれらの事実は『京王電鉄30年史』に記されている。

このことからわかるように、社史は地域社会を知るツールとして利用することができる。ビジネスアーカイブズは先に述べたように、一般には非公開であるけれども、社史が企業と地域社会の関係を探るための代替物としての役割を果たしてくれる。

最後にビジネスアーカイブズの公開と、公開促進についても触れておきたい。一つは社史を通じた公開があげられる。しかしこれには限界がある。イギリスのグラスゴーでは、企業資料を寄託する機関があると聞いている。このような仕組みづくりも大切であると思う。

また、本日の講演と関連して日外アソシエーツから刊行された『世界のビジネス・アーカイブズ─企業価値の源泉』がとても役に立つので、ぜひ手にとってもらいたい。

■加藤氏「公文書管理法を活かして記録を残す」■

岩手県庁で公文書を閲覧請求してみた。岩手では永年保存文書の目録をウェブ公開している。永年保存文書でも目録に載っていないものもある。有期限文書の目録はウェブには掲載されていない。有期限文書は情報公開請求によって閲覧する。

閲覧申請は県の総務部法務学事課が対応。今回は「引揚」「援護」関係の文書を閲覧しようとしたが、目録にない。目録にある「移民」も申請。県からは援護関係 については文書がない、という連絡があった。ただし1972年に発行された『援護の記録』はある、という。もちろん私(加藤氏)はその冊子についてはすで に知っているので、この冊子の元になった現記録をみたいと伝えた。一方、「移民」関係の文書は個人情報だから見せられない、という。

ここで問題点を考えてみる。

①まず、公開している永年保存文書の目録に掲載されている文書も、即日では閲覧できない。事前申し込みしないといけない。また、文書の内容をあらかじめチェックしていないため、申請があってから個別に確認する作業を行わねばいけない。

②永年保存文書が歴史的公文書になっていないため、いつまでも現用文書として扱われ、情報公開請求の対象である。そこで非常におかしなことであるが、南部藩から引き継いだ近世文書も現用文書ということになってしまっている。

③作成原課が異なるので、請求者に対してバラバラに連絡が来る。

④個人情報のチェックで無駄なやり取りと時間を要する。

⑤専門的知識のある職員がいない。公文書の中身を把握していない職員が対応するため、効率的でない。

国の個人情報保護法と地方自治体の個人情報保護条例には違いがあることも指摘しておきたい。個人情報保護法は生きている人だけが対象であるが、条例は死没者まで対象としている。また条例には適用除外がない。法律では第50条で適用除外を定めている。ということは、地方の場合は何百年たっても「個人情報」のままということになってしまっている。地域の歴史は個人の歴史の積み重なりであり、個人を隠すことは地域の歴史の抹殺に等しい。

ここまで見てくると、現在の公文書管理の状況は市民にとってはデメリットしかなく、行政にとっても無駄な労力と時間を費やす大変非効率なものであるということができる。

ここで他県の例も見ておきたい。佐賀県の例である。情報公開請求によって戦後引揚援護関係の公文書を請求してみた。当初は、「見当たらない」「記憶にない」 という対応であった。その後「探したら出てきた」に変わった。なぜか?そもそもファイル名からでは中身がわからないからである。公文書に関する専門知識を持った職員が不在なのである。県の職員は長くても3年で異動するため、3年前の文書もわからないということになっている。「今を起点に過去を見る職員の不在」である。

さらに公文書に関するイメージのズレ、があるように思う。職員は自分たちが作成した文書(起案して最終的に決裁を受けたもの) が管理対象であり、他から取得した文書や調査報告書の類は、自分たちが管理すべき公文書ではなく、それらを作成した原課の公文書である、という意識が強い。取得文書や調査報告書には保存年限が付与されていない傾向があり、こうなると捨てることも残すこともできない、という極めて困った状況に職員は置かれることになる。言葉を換えて言うと、文書を評価選別する職員が不在である、ということ。公文書館があっても、内容を把握していない文書は、内容を把握していないため(何が書かれているかわからないから)責任を持って移管できない。つまり、移管の主導権を握る公文書館は不在なのである。

「情報公開法があるからいい」? 何十年も前の文書まで作成原課が責任を持って対応しなければならない。はたしてこれは可能か。自分たちが関わったこともない文書は原課から切り離したほうが現実的である。

まとめ。作成から一定年限(30年)経過した文書は公文書館、または公文書館的機能を持つ組織へ移管したほうがよい。そうすれば次のようなメリットが得られる。

☆原課の書庫からわけのわからない文書を除去することが可能。
☆原課は何十年も前の内容もわからない文書に対する情報公開請求に対応しないで済む。
☆専門的知識を持つ職員が移管された文書に対応すれば、事務効率が上がる。
☆原課職員も無駄な仕事や責任から解放される。
☆文書を閲覧したい市民も長期間待たされたり、無駄なやり取りに対応するストレスから解放される。

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第1部ではとくに加藤氏の公文書閲覧請求体験に基づく講演が興味深いものでした。今のままの公文書管理体制が市民にはストレス、職員には負担となっていることがよくわかりました。専門職を置くことは行政の効率化に大きく寄与するはずです。

第2部は遠野市の行政文書館、釜石市における被災文書の保存活用といった現場の具体的お話でした。第1部、第2部合わせて講演内容がパブリッシュされたらいいな、と思います。

岩手県には県の公文書館は未設置、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協、JSAI)加盟アーカイブズもまだないとうかがいました。これを機会にアーカイブズへの関心が高まることを期待します。