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タグアーカイブ: デジタルアーカイブ

佐藤翔輔「東日本大震災アーカイブを使ってみた」(2017年)

02 月曜日 1月 2017

Posted by archivesstudio in Uncategorized, 国文学研究資料館, 東北大学災害科学国際研究所

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アーカイブズ, デジタルアーカイブ, sustainability, 専門職

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This work is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License.


昨日公開された科学技術振興機構(JST)のジャーナル『情報管理』Vol. 59 (2016) No. 10所収、佐藤翔輔(東北大学災害科学国際研究所)「視点 東日本大震災アーカイブを使ってみた」を読んだ。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/59/10/59_690/_html/-char/ja/

この論考は「デジタルアーカイブ」である東日本大震災アーカイブの利活用の事例として、著者が関わった二つの事例を取り上げている。

・宮城県東松島市の東松島市図書館「まちなか震災アーカイブ」

・宮城県多賀城市教育委員会が発行した多賀城市防災教育副読本資料集「命をまもり 未来をひらく」(2016年3月発行)

結論を私なりにまとめると

・デジタルアーカイブの効果的・積極的な利活用のためにはデジタルアーキビストやデジタルキュレーターといった専門的な人材が必要。

・しかし、多くの東日本大震災アーカイブを構築管理している県・市町村などの自治体では、職員の定期的な異動によってこのような専門的な人材を確保すること、養成すること、あるいは専門家コミュニティを構築することは難しい。

・職員の異動はデジタルアーカイブのサステナビリティ(持続可能性)のボトムネック(障害)となっている。

これは、アーカイブズ学の側から、現行の自治体の公文書管理制度(とくにアーカイブズ管理における専門職の不在)による問題─行政の非効率性、時々の担当職員の負担、アカウンタビリティ、市民による過去の行政情報へのアクセスの困難さなど─を指摘してこられた加藤聖文先生(人間文化研究機構国文学研究資料館准教授)の一連の論考を思い起こさせる。

一番最近のものでは

加藤聖文
「公文書管理制度の新しい可能性―市民の行政参加と地域再生―」
『住民と自治』2016年10月号
http://www.jichiken.jp/article_33/

がネットで読める。

ほかに、

加藤聖文
「市民社会における『個人情報』保護のあり方―公開の理念とアーキビストの役割―」
『国文学研究資料館紀要(アーカイブズ研究篇) 』11号、2015年3月13日
http://id.nii.ac.jp/1283/00001467/

も同様の問題を自身のリサーチの経験を通じて明らかにしている。

アーカイブズが持つ情報の価値は現代世界においてますます高まっているにも関わらず、それを有効に、効果的に、効率的に使うための仕組み、とくに専門的な知識と経験を備えた人材が、日本の公的機関では日本的な職場慣行に阻まれて正規職員として配置もされないし、養成もされないのである。

以前「デジタルアーカイブ」関係文献の紹介・批評をしたことがある。
https://archiveskoubou.wordpress.com/2014/05/19/iri-future-archivists/
http://ci.nii.ac.jp/naid/110010043296

これらの文献でもデジタルアーカイブを扱う専門的な人材の養成が必要とされていた。ただし具体的な事例に乏しい印象であった。本稿の冒頭で紹介した佐藤翔輔氏の論考は、実際の経験を通じた発見であると言う点で、価値あるものと思う。

さて、最後に一言。

東日本大震災アーカイブは、伝統的なアーカイブズからみるとコンテンツの集積であって、はたしてこれは、Archives、Archive、Archiv、檔案、档案、(역사적)기록물、Archivo、archīvum、Arkivo、・・・と呼ばれる、コンテンツ(内容物・意味)とコンテクスト(文脈)、ストラクチャ(構造)を持つもの/こととして世界各国で認識されているアーカイブズの話として語れるのか、という疑問を持つアーカイブズ関係者が多いと思う。私自身はいわゆるデジタルアーカイブとアーカイブズはまったく別物ではなく、デジタルアーカイブを構成するコンテンツは、(作成に遡る、目に見えない)コンテクストとストラクチャをもっているが、その部分の(目に見えない)情報の(再)組織化には手をつけない状態なのではないかと思う。デジタルアーカイブ関係者の方々は、とにかく今は(学術的?歴史的に?)「重要」(と思われる)コンテンツをデジタル化して広く流通させることが喫緊の課題と考えておられるように思う。

[追記]

アーカイブズを構成するのはアーカイブズ学やレコード・マネジメントでは「コンテンツ」+「コンテクスト」+「ストラクチャ」である(シェパード&ヨー著、森本他編訳『レコード・マネジメント・ハンドブック―記録管理・アーカイブズ管理のための』2016年 https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=359329&set_entry=000002&format=999 他参照)。

作成からアーカイブズとしての利活用までを一連の連続した流れとして考えるレコードキーピング・モデルの場合は「コンテクスト」と「ストラクチャ」は作成段階から明らかであろう。一方、関連する資料を集めた”コレクションとしてのアーカイブズ”の場合、上にのべたように「コンテクスト」と「ストラクチャ」は、資料の集積を編成/記述するという知的作業を行わないことには可視化されない。編成/記述されてはじめて「目にみえるもの」になる。図書資料の場合は、あらかじめ設定された分類項目のどこに1点1点の資料を分類するのか、が目録作成作業の重要な要素であり、目に見えない「コンテクスト」と「ストラクチャ」を見出して編成/記述するというアーカイブズの整理とはまったく異なった作業である。

目に見えない「コンテクスト」と「ストラクチャ」を編成/記述によって可視化する作業に関しては、本ブログで公開させていただいた渡辺悦子さんのエッセイ「グラスゴーの愛橘関連資料を読み解く」がわかりやすい事例である。

アーカイブズ資料を整理するにはこの編成/記述をどこまで行うか、が大きな問題である。そこに費やし得るコスト(時間、おカネ、人)とその資料の重要性によって、編成/記述のレベルは異なりうる。

なぜ「コンテクスト」と「ストラクチャ」が必要なのか?それはエビデンス(証拠)としての価値を担保するためである。エビデンスとしての価値を持たせる必要のないものであるならば、もちろん「コンテクスト」や「ストラクチャ」にかかずらわる必要はない。ただし、その場合、それらをアーカイブ、アーカイブズ、Archives、Archive、Archiv、檔案、档案、(역사적)기록물、Archivo、archīvum、Arkivo、・・・と呼ぶことはためらわれる。

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2016年12月28日 金沢 兼六園

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後藤真「アーカイブズからデジタル・アーカイブへ:『デジタルアーカイブ』とアーカイブズの邂逅」(2012年)目次

22 木曜日 5月 2014

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アーカイブズ, デジタルアーカイブ, デジタル・アーカイブズ

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ブログを読んでいただいた方から、「アーカイブズ」と「デジタルアーカイブ」の関係について、完結明瞭に、歴史的背景と歩み、課題が整理されている文献があります、とご教示いただきました。下記の文献です。

 

**********************

著者:後藤真

タイトル:アーカイブズからデジタル・アーカイブへ:「デジタルアーカイブ」とアーカイブズの邂逅
(NPO知的資源イニシアティブ『アーカイブのつくりかた:構築と活用入門』勉誠出版、2012年、所収)

出版者ウェブページ:
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100175

 

[目次]

「デジタルアーカイブ」という語が生み出したもの

アーカイブズの「登場」

デジタルアーカイブとアーカイブズの「ねじれ」がもたらしたもの

アーカイブズとデジタル・アーカイブズの「邂逅」

アーカイブズの思想が作る「デジタル・アーカイブ」・デジタルが救う「アーカイブズ」

公開と非公開のデジタルデータ

見えている文化財がプレ文化資源を引き出す

深まるデジタル・アーカイブ 広がるアーカイブズ

**********************

先日目次をご紹介した『これからのアーキビスト』(NPO知的資源イニシアティブ編、勉誠出版、2014年)所収の「博物館・美術館にデジタル・アーキビストは必要か?」で、阿児雄之氏は後藤氏の次の部分を引用しています。

「デジタル・アーカイブには、単純なギャラリーではなく、文化資源とそのあり方に基礎づけられた、新たなアーカイブの形を模索すべきであろう。基礎のない、コンテンツが浮遊しただけのものをデジタル・アーカイブと銘打つのは、『歴史学なき歴史』のデジタル版を再生産し続けるだけにすぎない。アーカイブズに土台を持ったデジタル・アーカイブの作成が必要である」(後藤、114ページ)

この問題意識を受けて、阿児氏は、

「私は博物館・美術館にアーキビストならびにアーキビスト的役割は必要であると考えるが、デジタル・アーキビストという人物像を明確に描くことができない。加えて、後藤氏も述べられているが、単なる文化資源をデジタル化したコンテンツをデジタル・アーカイブと呼び、それに従事する人材がデジタル・アーキビストであると社会に認識されてしまうと、アーキビストの土台なきデジタル・アーキビストが登場してしまう危険性も孕んでいる」(阿児、22ページ)

と述べて、「デジタルアーカイブ」を進める中で、「アーキビストの土台なきデジタル・アーキビスト」登場を懸念しています。阿児氏は結論部分で、

「博物館・美術館におけるデジタル・アーキビストとは、あくまでもアーキビストに包含される概念であり」(阿児、29ページ)との考えを示しています。

「これからのアーキビスト」は、「アーカイブズ」とそれを扱う「アーキビスト」の職務を土台にしたもの、という考え方に私も共感をおぼえます。

**********************

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