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タグアーカイブ: 記述

検索手段、編成、記述と目録

14 土曜日 5月 2016

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arrangement, 目録, 編成, description, 記述, 記述標準, finding aids, 検索手段

昨年7月の企業史料協議会(BAA)資料管理研修セミナーのテーマは「資料活用のための目録作成のヒント:資生堂企業資料館での資料整理を事例として」、そして二つの講演のタイトルは「目録の標準化とは何か」と「アーカイブズ資料記述および目録作成の一例:資生堂企業資料館所蔵資料を例に」でした。

しかし実は、アーカイブズに関する英語文献では「目録」catalogue、「目録作成」cataloging、という言い方はあまりせず、もっぱら「検索手段」finding aidsという用語を目にします。そしてこれは記録(レコード)の組織化のための行為である「編成」arrangement、「記述」descriptionという用語と密接に関係します。

これらの用語について、上述のBAA資料管理研修セミナーで講師を務めてくださった東京大学文書館准教授の森本祥子先生にうかがってみました(2016年5月14日)。以下、森本先生のお話です。

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まず、「目録」「編成」「記述」に対応する英語は次の通りです。

目録 = catalogue / list
編成 = arrangement
記述 = description

そして、編成と記述はセットで行われると考えられているので、英語圏だとA & D(arrangement & description)といったように省略して使われたりします。

検索手段 = finding aids

は、文字通り、情報を探し出すためのツール全体を包括的にいう呼び方です。

日本は伝統的に表形式の目録だけが検索手段でしたが、例えばイギリスだと、index(トピックスや固有名詞など、ものを探す手がかりになるキーワード一覧)とかcalendar(個々の資料の内容を詳細に説明したもの)などが伝統的に作られてきたので、そうしたものも含めた、すべての「情報検索ツール」を指す意味合いです。

それでは、なぜ「目録」ではなく「編成・記述」という言葉が(アーカイブズ学・実務関係者に)好まれるようになったかということですが、要は、「目録」というのはいわば「単なる形」をさすものであって、それがどのような作り方をされたものであれ、情報が書き連ねられていれば、目録である、ということになります。

他方、「編成」と「記述」は、資料の分析を経るものであって、結果としての「形」よりも、その過程に注目した言い方です。日本での定着としては、そうした資料分析が重要だという議論とともにそれが従来の「目録論」というような言葉から、「資料の編成・記述」という言い方に変わってきたという経緯があります。

資料の特徴を引き出していようがいまいが、とにかく「リスト」があればいい、というのではダメで、資料群を分析し、ひとつひとつの資料の関係が見えるように、それがどのように作られたのかがわかるようにきちんと分析しよう、というのがarrangement & descriptionにこめられた意味合いということですね。

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森本先生ありがとうございました。

2015-11-27 15.34.38

2015年度BAA(+α)を個人的に振り返る

14 土曜日 5月 2016

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アーカイブズ, ビジネスアーカイブズ, BAA, business archives, 編成, 記述, 企業史料協議会

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再来週の金曜日(5月27日)、企業史料協議会(Business Archives Association: BAA)の第35回総会・記念講演会が開催されます。会場は四ツ谷駅そばの主婦会館。初めての会場です。
http://www.baa.gr.jp/news.asp?NoteAID=11
http://www.baa.gr.jp/syousai.asp?id=393

総会を前にBAAのこの一年(2015年5月~16年5月)を振り返りました(私が参加した範囲で、です)。

・総会(第34回:2015/5/29日本教育会館、第35回:2016/5/27予定)
・広報部会(7/14、9/2、11/30、2/9、3/2、3/29、5/10、5/17予定、すべてBAA事務所)
・理事会(5/29、10/2、12/4、3/18、5/27予定、5/27を除きスクワール麹町)
・資料管理研修セミナー:「電子データの長期保管:現状と動向」(10/9一般社団法人全水道会館)、「史資料のデジタル管理と活用」(3/1中央大学駿河台記念館)
・第4回BA(ビジネスアーカイブズ)の日打ち合わせ(9/8アジア歴史資料センター、9/28国立情報学研究所)
・第4回BAの日講演会・シンポジウム(11/5日本教育会館)
・広島地方見学研究会(11/26-27)
・ビジネスアーキビスト研修講座「多様な価値を持つ企業アーカイブズとは」出講(12/10東京大学本郷キャンパス小島ホール)
・博物館セミナー「これからの企業ミュージアム」(3/8中央大学駿河台記念館)

■7月11日の資料管理研修セミナー
「資料活用のための目録作成のヒント:資生堂企業資料館での資料整理を事例として」

企業史料協議会では30年以上にわたって企業史料の取り扱い、管理、活用等に関してセミナーを行ってきました。研修担当理事によると(不思議なことではあるのですが)「目録」(アーカイブズの用語としては「編成、記述」)に関するセミナーを開催するのはおそらく初めてではないか、ということでした。これは日本における企業史料の保存と活用が長らく社史編纂を目的としてきたことと関係するのかもしれません。

講師を引き受けてくださったのは東京大学文書館准教授の森本祥子先生(「目録の標準化とは何か」)と学習院大学大学院アーカイブズ学専攻博士課程の清水ふさ子さん(「アーカイブズ資料記述および目録作成の一例:資生堂企業資料館所蔵資料を例に」)のおふたりです。申し込み多数のため急きょ大きな会場を確保して約80名の参加者にお越しいただきました(当初の募集人員定員は20名弱)。この分野に関する学習・研修の機会が求められていることを痛感しました。

通常司会は研修部会担当理事が行うのですが、研修部会に企画を持ち込んだ関係で私が司会を担当させていただきました。

http://www.slideshare.net/Business_Archives_Association/ss-50534474
http://www.slideshare.net/Business_Archives_Association/ss-50596064
http://www.slideshare.net/Business_Archives_Association/201507105-50418367
https://www.facebook.com/kigyoushiryou/posts/744653425657162
https://www.facebook.com/kigyoushiryou/posts/744656185656886
■11月5日のビジネスアーカイブズの日
「デジタル時代におけるビジネスアーカイブズ」

このイベントは毎年広報部会が企画運営します。2015年は特別講演をアジア歴史資料センター長の波多野澄雄先生(アジア歴史資料センターセンター長)に、今年のBAの日のテーマ「ビジネスアーカイブズと情報発信」に関する基調講演を高野明彦先生(国立情報学研究所コンテンツ科学研究系教授、東京大学大学院情報理工学系研究科教授)にお願いしました。

パネルディスカッションでは「デジタル時代におけるビジネスアーカイブズ」をテーマに石川敦子氏(㈱乃村工藝社)、佐藤朝美氏(㈱資生堂)、渡邉淳氏(セイコーミュージアム)の三人をパネリストにお招きし、高野先生にはモデレータをお願いしました。資料のデジタル化による積極的な情報発信は各社の事業に貢献するのはもちろんですが、情報発信がアーカイブズへの関心を高めると言う点も非常に重要です。
https://www.facebook.com/kigyoushiryou/posts/803890816400089
■(+α)1月の全史料協近畿部会(尼崎市総合文化センター7階 会議室)
「東京大学文書館における資料管理のとりくみについて:理論の理解と実践の試み」

これは7月のBAAでのセミナーを聞きつけた(!)全史料協関係者から、関西でも森本先生のお話が聞きたいということで実現した企画であると聞いています。コメンテータとして参加させていただきました。

記録資料整理における国際標準に関する理論(ICAがまとめたISAD(G)とオーストラリアで採用されて利用されているシリーズ・システム)と、東京大学文書館での実践(既に完結した歴史資料はISAD(G)で記述し、現在も作成され続けている大学法人文書に関してはシリーズ・システムに依拠して記述する)について詳しいお話をうかがいました。
http://jsai-kinki.com/blog-entry-66.html
https://www.facebook.com/AmagasakiMunicipalArchives/posts/827267230719049
企業で資料整理をする場合「なぜ国際標準が必要なのか」という疑問を持つ方も多いと思います。つい先日も「日本では今のところ、どの資料管理システム・ベンダーからも、アーカイブズ記述の国際標準に依拠したシステムは提供されていないんですよね」とお話したところ、ある企業資料館の館長さんから「いま使っているシステムで全然問題がない。国際標準でなくてもいいんじゃないの」という趣旨のコメントをいただきました。現在のシステムによって必要な資料を的確に探し出すことができる、満足できている場合、そして相応の投資をしている場合原価償却するまでにシステムを変えるといった必要性はもちろんないでしょう。

ただし、企業も政府もいずれ担当者は異動したり、退職したり・・・つまり変わります。文書作成者や作成者に近い人が資料管理をしている間はその文書に関するコンテクスト情報を得ることは難しくないかもしれませんが、アーカイブズの担当者が代替わりしていくうちにコンテクスト情報が失われていくのは避けられません。アーカイブズ資料が標準(規格)に則って記述されていれば、このような代替わりによっても、正確なコンテクスト情報を継承していくことができます(以上、森本先生の講演での説明を要約。http://www.slideshare.net/Business_Archives_Association/ss-50534474 スライド14)。ですから、システムの更新などの時期を迎えるならば、目録作成において標準という考え方を取り入れていくことを考えるのは好ましいことであると言えます。

そして、森本先生がもうひとつ強調していた「アーカイブズ資料は、資料の数だけ個性がある」から「ゆるやかにうけとめることがポイント」という点も重要です(前記スライド22)。アーカイブズはひとつとして同じものがありません。企業でも、同じ業種のアーカイブズであっても所蔵資料はまったく異なってきますし、編成(一般的な日本語に置き換えると「分類」)・記述も違ってくるのは避けられません。マニュアルがない、とも言えます。そのため所蔵資料を自らが分析して、編成(分類)、記述する必要が生じるわけで、そこが難しいところでもありますし、また面白いところでもあります。

 

■(+α)ICAソウル大会
そして今年は4年に一度のICA Congressがお隣韓国ソウルで9月に開催されます。私が関わるICASBAのセッション・プロポーザルが受理されたほか、加藤丈夫国立公文書館館長が「日本のアーカイブズの伝統をグローバル時代の新たな需要と調和させる:日本のビジネスアーカイブズに焦点をあてて」というタイトルでプレゼンテーションを行われるという発表がありました。
http://www.ica.org/sites/default/files/ICA%20Congress%20Seoul%202016%20accepted%20papers%20by%20TOPIC.pdf
http://www.ica.org/sites/default/files/ICA%20Congress%20Seoul%202016%20accepted%20papers%20by%20subID.pdf

加藤館長にはBAAの第2回ビジネスアーカイブズの日記念シンポジウム(2013年11月5日)で特別講演「企業が語り継ぐもの」を行っていただきました。
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.432643056858202.1073741826.223260084463168&type=3

国立公文書館館長がビジネスアーカイブズをテーマに掲げて講演すると知り、たいへん驚きつつ、BAA関係者にとってはうれしい知らせでした。

 

■(+α)『レコード・マネジメント・ハンドブック:記録管理・アーカイブズ管理のための』翻訳プロジェクト
http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784816926112

私も編訳者の一人として参加した翻訳プロジェクトの成果物『レコード・マネジメント・ハンドブック:記録管理・アーカイブズ管理のための』が来月中旬日外アソシエーツから刊行されます。先日無事校了を迎えました。

この本は今年度のBAAの活動とは直接の関係はありません。しかし校了を迎えたのを機に、もう少し長いスパンで振り返ってみると、これもBAAの活動に連なるものであるなぁ、といささか感慨深く感じています。

始まりは東日本大震災があった2011年。前々年から公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センターが準備を進めていたビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム「ビジネス・アーカイブズの価値:企業史料活用の新たな潮流」(2011年5月11日)に、この年設立30周年にあたるBAAも共催者として、準備に関わってくださいました(国際アーカイブズ評議会企業労働アーカイブズ部会 (ICA/SBL)も共催)。
http://www.shibusawa.or.jp/center/network/01_icasbl_Tokyo.html

大震災のため一時は中止かとも思われました。しかし、海外のビジネスアーキビストの参加キャンセルも少数にとどまり、無事に開催できました。この時のプレゼンテーションを基に、主催者の公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センターは『世界のビジネス・アーカイブズ:企業価値の源泉』を編集し、2012年4月に日外アソシエーツから刊行することができました。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20120215/1329283710

本書刊行にあたっては日本のアーカイブズ界で活躍する方々に翻訳チームに参加してもらいました。英国国立公文書館のアレックス・リッチー氏による「ビジネス・アーカイブズに関する全国的戦略(イングランドおよびウェールズ)」を担当してくれたのが、学習院大学大学院人文科学研究科(当時)の森本祥子氏でした。またSBL議長でシンポジウム開催にリーダーシップを発揮してくれたフランスのサンゴバン社アーキビストであるディディエ・ボンデュー氏の部分を担当してくれたのが立教大学共生社会研究センターの平野泉氏。ボンデュー氏の章「フランスのビジネス・アーカイブズ、経営に役立つツールとして:サンゴバン社の例」の翻訳・編集にあたっては英語のみならずフランス語にも通じている方がどうしても必要で、平野さんはまさに適任でした。

この本の刊行もご縁となり、森本さんにはBAA編『企業アーカイブズの理論と実践』(2013年11月刊)第4章「機能としてのアーカイブズ」の執筆を担当していただきました。
http://www.baa.gr.jp/kankobutu.asp?NoteAID=32
http://www.amazon.co.jp/%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%96%E3%82%BA%E3%81%AE%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%A8%E5%AE%9F%E8%B7%B5-%E4%BC%81%E6%A5%AD%E5%8F%B2%E6%96%99%E5%8D%94%E8%AD%B0%E4%BC%9A/dp/4863451768

一方、ちょうどこの時期(記録によると2013年11月13日)、日本アーカイブズ学会委員の平野さんから翌2014年年4月のアーカイブズ学会設立10周年記念大会企画研究会「私たちの『アーカイブズ学』をとらえ直す──批判・検証・展望」に森本さん、京都大学文書館の坂口貴弘さんとともに発表できますかという打診を受けました。

日本アーカイブズ学会2014年度大会(設立10周年記念大会)2014年4月20日(日)学習院大学
http://www.jsas.info/modules/taikai02/index.php?id=12

この時の発表は『アーカイブズ学研究』21号(2014年12月刊)に収録されています。
http://www.jsas.info/modules/publications01/index.php?id=35

この企画研究会や当時の出版状況を見渡す中で、アーカイブズ管理の実務をしっかり支えるテキストが必要なのではないか、という意識が高まり、それが『レコード・マネジメント・ハンドブック:記録管理・アーカイブズ管理のための』翻訳プロジェクトを立ち上げる動機ともなりました。

2011年の国際シンポジウム以前のBAAのアカデミック・コミュニティとの関わりは、もっぱら経済史・経営史研究者に限られていたように思います。ですので、過去5年の間にアーカイブズ学研究者とのつながりを深めたことは特筆すべきことかと思います。理論にガチガチにしばられて自由な発想でアーカイブズを運営できないのは論外でしょう。しかし、確固とした理論・研究活動から栄養をいただいていくことは、企業アーカイブズのレベルアップ、成長に不可欠であると思います。

『レコード・マネジメント・ハンドブック:記録管理・アーカイブズ管理のための』は組織における文書管理・記録管理・アーカイブズ管理のための包括的な手引書です。編訳者としては、企業の方々にもぜひ参照していただきたいと希望しています。

最後にBAAの話題に戻ると、今年が創立35周年ということは2021年の40周年(anniversaty!)まであと5年です。5年後、今回の翻訳プロジェクトに加わってくれた30代の若手アーキビスト・研究者がさらに活躍している姿は目に浮かびます。5年後のBAA、5年後のビジネスアーカイブズ、5年後の自分は一体はどうなっているでしょう。私個人としては、研鑽を怠らず、科学と技術の発展に取り残されないよう心がけるばかりです・・・

2015-11-26 13.06.41
広島地方見学研究会(11/26-27) にて

 

「ディスカバリー」をきっかけに考えたこと

12 木曜日 5月 2016

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Archivematica, Archon, AtoM, オープンソース, ディスカバリー, Calm, Discovery, 記述, 記述標準, ICA, ISAD(G), NRA, Omeka, TNA

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■TNAのディスカバリー・サービス導入

10年と少し前にビジネス・アーカイブズに関わる仕事を始めて以来、イギリス国立公文書館(TNA)のNRA(National Register of Archives、特にビジネス・レコード・インデックス)とアーカイブズ機関情報に関するARCHONディレクトリ、そしてアメリカ・アーキビスト協会(SAA)の企業団体アーカイブズ・ディレクトリは、私にとってずっと、ビジネス関連レコード/アーカイブズ(資料と機関)所在情報のデータベース化・組織化のベンチマークとなってきました。NRAに関しては、3年前に森本祥子氏による日本語文献が公刊されて、イギリスにおけるアーカイブズ所在情報組織化の歴史的な経緯の理解が格段に進んだと思います。その後国立公文書館の渡辺悦子氏によるイギリスでのアーカイブズ機関の連携に関する論文が公開され、TNAが管理する複数の検索システムやデータベースの統合による新たなサービス「ディスカバリー」の紹介も進みました。(TNAではディスカバリー・サービスの提供開始とともに、個々の検索サービスの提供は停止したため、以下ではウェブアーカイブズからのスナップショットを記載しておきます。)

【TNA: NRAディレクトリのスナップショット(2013年9月20日)】
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20130920012334/http://www.nationalarchives.gov.uk/nra/default.asp

【TNA: ARCHONディレクトリのスナップショット(2008年1月7日)】
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20080108014935/nationalarchives.gov.uk/archon/

【SAA: 北米における企業団体アーカイブズ機関ディレクトリ】
http://www2.archivists.org/groups/business-archives-section/directory-of-corporate-archives-in-the-united-states-and-canada-introduction#.VzKBh9KLTcs

【TNA: Historical Manuscripts Commission】
http://www.nationalarchives.gov.uk/archives-sector/hmc.htm


【Royal Commission on Historical Manuscripts(1869年設置)についての日本語文献】
ノーマン ジェイムズ. 森本 祥子. 翻訳. イギリスにおける民間アーカイブズ : その保存へのとりくみ. アーカイブズ学研究 / 日本アーカイブズ学会 編.. (19):2013.11. 70-87 ISSN 1349-578X
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=852174&set_entry=000001&format=999

【TNA: ディスカバリー】
http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-projects/discovery/

http://discovery.nationalarchives.gov.uk/

【TNAディスカバリーについての日本語文献】
渡辺 悦子. イギリス国立公文書館の連携事業. アーカイブズ / 国立公文書館 編.. (54):2014.10. 50-60 ISSN 1348-3307
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=853312&set_entry=000001&format=999
(本文PDF)
http://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_54_p50.pdf


さらに、昨年(2015年)10月に福岡で開催された国際アーカイブズ評議会東アジア地域支部(EASTICA)総会・セミナーにはTNA商務・デジタル関係担当ディレクターのメアリー・グレッドヒル氏が参加、ディスカバリーに関する詳しい説明もありました。

【「英国国立公文書館におけるボーンデジタル記録管理の課題」】
メアリー・グレッドヒル(英国国立公文書館商務・デジタル関係担当ディレクター)
(要旨・本文PDF)
http://www.archives.go.jp/news/pdf/151106gledhill_ja.pdf
http://www.archives.go.jp/news/20151106.html

※関連文献として下記も上げておきたいです。
 齋藤歩(学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻博士後期課程)
 「アーカイブズのデジタル化がめざすもの」(2016年1月5日)
 http://www.ameet.jp/digital-archives/digital-archives_20160105/

TNAの2015年11月4日付ブログ記事によると、この時点でディスカバリーはTNAと英国国内2500のアーカイブズ機関が所蔵する記録に関する3,300万件の記述へのアクセスを提供しています。

【More comprehensive Discovery】
http://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/comprehensive-discovery/

TNAの新サービスを初めて耳にした当初(2012~3年頃)は、それはアーカイブズに関わる複数のデータベースを横断検索するシステムで、”Discovery”なる名称は単なる固有名詞だろうと素朴に受けとったものでした。しかし、どうももやもやしたものを感じたまま、「ディスカバリー」がずっと気になっていました。

 

■図書館界での「ウェブスケールディスカバリー」に触れて

そこで、思い立って手にとってみたのが『図書館を変える!ウェブスケールディスカバリー入門』です。これは大学図書館(佛教大学図書館)に勤務する著者が「ウェブスケールディスカバリー」と呼ばれるサービスを日本で初めて導入した事例を詳しく解説紹介した本です。

飯野勝則 著. 図書館を変える!ウェブスケールディスカバリー入門. ネットアドバンス ; 出版ニュース社 (発売), 2016.1. 270p ; ISBN 978-4-7852-0156-2 :
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=971079&set_entry=000001&format=040

http://www.amazon.co.jp/%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%82%8B-%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E5%85%A5%E9%96%80-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E9%A3%AF%E9%87%8E%E5%8B%9D%E5%89%87/dp/4785201568

本書によると、図書館業界における「ディスカバリーサービス」とは、電子コンテンツが増大するなか、「紙」と「電子」の多様なコンテンツを一元的に管理し提供するために生まれた新しいOPAC、ということです。と言いつつ、TNAのディスカバリー(Discovery=常に大文字のDで始まる名称)と図書館界のディスカバリーサービスの関係は今一つはっきりとはしません。”資料利用者の利便性を高めるために、発達しつつあるテクノロジーを使って実現した、より高度な検索サービス”というほどの共通項なのかなぁ・・・と思いつつ本書をひも解いてみたところ、この問題とは別な部分に目が釘付けとなりました!

 

それは本書が「日本化」と呼ぶ取り組みです。「日本化」は本書のテーマそのものです。どう言うことかというと、ウェブスケールディスカバリーサービスを提供するベンダーは本書執筆時点では四つ、すべて海外のベンダーでした(OCLCのWorldCat Local、ProQuestのSummon、EBSCOのEBSCO Discovery Central、Ex LibrisのPrimo Central、同書35ページ)。佛教大学図書館ではこの4者のうち、ProQuestのSummonを日本で初めて導入、そしてローカラズ(日本化)=日本語に対応させることに取り組みました。(著者は日本化には二つの側面、一つはシステムの日本語化であり、もうひとつはコンテンツの日本化=すなわち日本語コンテンツを増やすことであると説明しています。同書99ページ)

一方、図書館のシステムはどうかというと、多くは国内ベンダーによって提供されているようです。例えば、ブログ「よしなしごと」(2016年1月11日)によると、国立大学法人26校の図書館システムのベンダーは2016年には、NTTデータ九州、富士通、NEC、リコー、日本事務機、丸善・京セラなどの国内企業です。

国立大学法人の図書館システム(2016)
http://otani0083.hatenablog.com/entry/2016/01/11/182900



■アーカイブズ機関の資料管理システム/ソフトウェア

翻ってアーカイブズに関わるシステムの状況はというと・・・。私が知るかぎり、日本国内の企業の資料室(アーカイブズ)で、アーカイブズ専用システム(ここで「専用」として念頭に置いているのは、アーカイブズの原理すなわち出所に基づく編成・記述という考え方を採用したものです)を利用しているという事例を耳にしたことはなく、図書館や博物館向けの資料管理システム、あるいは社史編纂のための年表作成ツールとして開発されたシステムを資料登録管理のために利用しているという例がほとんどです。エクセルやファイルメーカーといった汎用の表計算ソフトやデータベース・ソフトウエアで一から作り上げる、という方法をとっているところも多いと思います。

 

【イギリスの例:Calm】

そこで海外に目を向けるとどうでしょうか。イギリスの場合、アーカイブズ機関の多くが利用するAxiell ALM社提供のプロプライエタリなシステム、Calmがあります。自治体や大学アーカイブズに加え、イングランド銀行、HSBC、ガーディアン、マークス&スペンサー、ユニリーバ社、ウェルカム財団といった企業・団体アーカイブズでもCalmは利用されています。ユーザ機関は400を超えます。

Calmの特徴は ISAD (G)、EAD、EAC、ISAAR (CPF)、OAI-PMH、RDF、SPECTRUMといった国際標準に準拠したつくりになっており、アーカイブズ資料の持つさまざまな階層性をシステム上に再現し、コンテクスト情報を提供できる点にあります。画像ビュー、典拠ファイル(名称、場所、主題、事項、事件、期間)、主題シソーラス、貸し出し管理、修復状況管理、アクセス提供(CalmView)、アクセス権限管理、分類、検索、EADインポート/エクスポート、その他の機能を備えています。

(Axiell ALM社)
http://alm.axiell.com/solutions

(ユーザ一覧)
http://alm.axiell.com/customers/client-list?field_country_tid=17&field_collection_type_tid=All&field_product_tid=9&items_per_page=500

(Calmに関する説明:PDF)
http://alm.axiell.com/sites/default/files/Calm%20ALM.pdf

Calmを利用しているイギリスのアーカイブズ機関は非常に多いのですが、ロンドンの著名な銀行アーカイブズのアーキビストに直接聞いた話によると、同行アーカイブズではファイルメーカーを利用しているということでした。このようなアーカイブズはもちろん他にも存在するでしょう。

【韓国での取り組み:オープンソース・ソフトウェア】

韓国での記録管理学・アーカイブズ学教育の中心機関のひとつ、韓国国家記録研究院副院長であるイム・ジンヒ氏の講演(2014年6月21日、学習院大学にて)は、オープンソース・ソフトウェアを利用して民間アーカイブズを普及するという活動に関するものでした。わたしもこの講演会に参加しました。その講演内容は、学習院大学大学院アーカイブズ学専攻が発行する年報『GCAS Report』第4号(2015年2月28日発行)に全文収録されています。

任 眞嬉. 元 ナミ. 訳. 金 甫榮. 訳. 講演 韓国におけるオープンソース・ソフトウェア記録システムの普及活動 : 〈記録文化〉を浸透させるために. GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 / 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻 編.. (4):2015. 6-22 ISSN 2186-8778
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=976026&set_entry=000001&format=999
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/g-hum/arch/02gcas-report.html

韓国では日本より10年早い1999年に公文書管理に関する法律「公共機関の記録物管理に関する法律」が制定され、これを嚆矢として公共部門における電子記録管理、アーカイブズ管理が飛躍的に進展したのでした。イム先生の講演によると、近年アーキビストたちは民間におけるアーカイブズ構築に着手し、その中でシステム構築の方向性が議論になったといいます。

「民間アーカイブズ(※)では、システムを構築するにあたって、さまざまな困難に直面していました。サーバーの確保やソフトウェア購入費用などは、民間アーカイブズにとって大きな負担でした。システムを構築するとしても、持続的に維持することが可能なのかという問題がありました。また、記録システムをまったく扱ったことのないアーキビストが、備えていなければならない機能要件を整理することは不可能でした。私は多くの民間アーカイブズをコンサルティングする中で、このようなシステムの問題の存在を知ることができました。

結局、私は2013年春、一つの決心をします。オープンソース・ソフトウェアを利用して記録システムを構築してみようということでした。そうすればまず、システムの構築費用は安くすむでしょう。そして、多くのアーカイブズが共通のオープンソース・ソフトウェアを使うことによって、技術的な問題を共同で解決していくことも可能となります。さらに、アーキビストたちがシステムを経験することによって、今後、高度なシステムを設計する能力を身につけることもできるでしょう。」(8ページ)

(※)ここで言う民間アーカイブズとは、欧米でcommunity archivesと呼ばれるようなものと考えられます。日本で「民間」というと企業なども含まれることが多いのですが、ここでは企業のアーカイブズは想定されていないようです。

イム先生たちは、記録の登録と記述のためには「AtoM」、長期保存には「Archivematica」、「基本目録の管理とオンライン展示のためには「Omeka」をオープンソース・ソフトウェアとして選びました(9ページ)。(AtoMに関しては後述)

 

■オープンソース・ソフトウェア

日本でもオープンソース・ソフトウェアの利用の試みの事例があります。2011年7月11日に開催された全史料協(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会)近畿部会のテーマは「オープンソースのアーカイブ資料管理情報システム:日本語化の取り組みと試用実践の一例」で、講師は京都大学研究資源アーカイブ・デジタルコレクションアーキビストの五島敏芳氏でした。最初に五島氏の講演があり、続いてワークショップ形式でオープンソース・ソフトウェア(Archon)を用いて実際に参加者が資料登録を行いました。
http://www.jsai.jp/iinkai/kinki/e20110702.html
http://togetter.com/li/974084

五島先生の講演でも触れられていたように、当時はArchonのほか、Archivists’Toolkit(AT)やICA-AtoMなどのオープンソース・ソフトウェアが利用可能でした。その後2013年の9月に、ArchonとATを統合し新たな機能を付加したArchivesSpaceがリリースされています。ArchivesSpaceはウェブ上の次世代アーカイブズ情報管理システムであり、紙・電子・紙と電子のハイブリッド状態での記録の収集・記述・編成、典拠と権利の管理、レファレンス・サービスのための機能を備えています。加えてオーサリング・ツールの機能では、EAD, MARCXML, MODS, Dublin Core, and METS 各フォーマットでメタデータを生成することもできます。
http://www.archivesspace.org/overview
http://archivesspace.org/programtimeline

一方、イム先生の講演で言及されていたAtoMは、もともとはユネスコの資金を得て、2005年から国際アーカイブズ評議会(ICA)がカナダのArtefactual社と共同で開発、無償で提供してきたアーカイブズの記述とその目録のオンライン公開用ソフトウェアです(多言語対応)。当初はICA-AtoMというブランド名でした。しかしその後Artefactual社は独自に開発を進め、ICA-AtoMとAtoMという二つのバージョンが併存する状況となりました。結局、2015年以降ICM-AtoMの開発・バージョンアップは停止し、現在はArtefactual社のAtoMのみが継続的に更新されています。AtoMはICAが定めたアーカイブズに関わる国際標準(ISAD(G)等)に完全に準拠したソフトウェアです。
http://www.ica.org/en/ica-statement-access-memory-atom-0
https://www.artefactual.com/ica-publishes-position-statement-on-atom/

■おわりに

ここまでややまとまりなく書いてきましたが、私がささやかながら主張したいことは、事業活動の証拠と組織の記憶の保存・継承・活用のためのアーカイブズ管理を支えるシステムやソフトウェアの開発がこれからもっともっと盛んになってほしい、ということです。その際、記録資料の特性を最もよく活かすような資料の組織化・公開を可能にするものが必要だろう、ということです。オープンソースでもよいですし、プロプライエタリのものでもよいです。使いやすく、安定したものがいいですね。場合によっては海外製品のローカライズ(日本化)であってもよいのでは。TNAのディスカバリーは3,300万件のアーカイブズ記述情報へのアクセスを提供しているそうです。記述情報(つまりメタデータ)のデジタルなシステムへの登録を増やし、アクセスの対象を広げるためにも、使いやすいシステムが必要であろう、と考えた次第です。

20140621gakushuin

 

 

森本祥子「アーカイブズ編成・記述の原則再考:シリーズ・システムの理解から」(2014年)

15 日曜日 6月 2014

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シリーズ, シリーズ・システム, 目録, 立法, 編成, 記述, NDL, 公文書, 公文書管理法, 国立国会図書館, 森本祥子

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本ブログの「アーカイブズ目録記述例としてのNDL(国立国会図書館)の階層構造の考え方」末尾で

「アーカイブズの目録記述方法には「シリーズ・システム」という考え方もあります。シリーズ・システムについては下のtogetterを参照してください。
http://togetter.com/li/89658」

と記しました。togetterでまとめた2011年1月15日開催の日本アーカイブズ学会研究集会「アーカイブズの構造を読み解く-編成・記述論の現在―」での森本祥子さんの発表「オーストラリア・シリーズ・システムの可能性について」が論文として刊行されました。

**********************

著者:森本祥子

タイトル:アーカイブズ編成・記述の原則再考:シリーズ・システムの理解から
(国文学研究資料館編『アーカイブズの構造認識と編成記述』思文閣出版、2014年、所収)

出版者ウェブページ:
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/shosai.php?code=9784784217366
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/pamphlet/9784784217366.pdf

関連ブログページ:
https://archiveskoubou.wordpress.com/2014/06/14/nijl-archives-20140331/

 

**********************

[目次]

はじめに

一 シリーズ・システム

(1)前史:イギリスの伝統からの出発

(2)シリーズ・システム成立の経緯

(3)シリーズ・システムの基本的考え方

二 「恩給裁定原書」を素材とした記述例

三 「非」現代組織運営文書の管理におけるシリーズ・システムの有用性

おわりに

**********************

従来、記録資料(記録としてのアーカイブズ)の記述には、ICAが提唱する「国際標準記録史料記述:一般原則」(General International Standard of Archival Description: ISAD (G))に基づく編成記述が標準的なものと考えられてきました。

ISAD(G)に基づく編成記述の例を分かりやすく説明した文献として次のものをあげたいと思います。

牟田昌平「本格的デジタルアーカイブを目指して : アジア歴史資料センターの実験」
一般社団法人情報処理学会『情報処理学会研究報告. 情報学基礎研究会報告』 2003(112)、 33-44、2003-11-13

http://ci.nii.ac.jp/els/110002911492.pdf?id=ART0003258146&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1402737587&cp=

http://ci.nii.ac.jp/naid/110002911492/

小川千代子「ISAD(G)の実装 : アジア歴史資料センターの階層検索システム」
記録管理学会『レコード・マネジメント : 記録管理学会誌』 (45)、 10-25、2002-11-30

http://ci.nii.ac.jp/els/110003840749.pdf?id=ART0005051707&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1402754939&cp=

http://ci.nii.ac.jp/naid/110003840749

牟田論文の39ページ「図表4 各階層と各所蔵機関の目録構造比較対照表」、小川論文17ページ「第2図 資料の階層構成図」が示すように、ISAD(G)は出所である記録作成組織の階層性に応じた記録の原秩序を目録上で表現する方法と考えられます。

このような資料の編成記述・目録作成は、組織や業務が固定化されている場合には有効なのですが、記録を生み出す組織の改編が頻繁になってきた場合、階層構造の提示が困難となります。この点について森本氏は次のように述べます。

「組織変遷が頻繁に発生する現代の組織運営文書の場合には、文書の作成者と文書との関係は流動的であり、ある業務にともなって文書が作成され始めた時と、その業務が終わって文書のまとまりができあがった時とでは、作成組織が変わっている、ということは珍しくない。ある業務とそれにともなって作成される文書シリーズは一貫しているにもかかわらず、文書の直接的作成者(たとえば、課や係といった単位)はいうまでもなく、フォンド・レベルの作成者も変わる(省庁名が変わった、市町村合併が行われた、会社が吸収合併された、など)ことがある。このような場合は、作成者と資料とは「1対1」対応との前提に立ち、単一の出所のもとにすべての文書を関連づけるというツリー型の階層構造では、作成者と文書の関係を正確かつわかりやすく表現することはむずかしい。」
(森本祥子「アーカイブズ編成・記述の原則再考:シリーズ・システムの理解から」71~72ページ)

そこで森本氏が紹介するのは、オーストラリアで開発された「シリーズ・システム」と呼ばれる手法です。この方法では、文書の作成者(エージェンシー)に関する記述と、文書(シリーズ)に関する記述を別々に作成し、必要に応じて両者の記述をリンクさせます。この手法は森本氏によると、

「見かけ上、作成者と文書についての記述が切り離されるために出所原則が崩されたように見えるが、その本質は真の意味での出所原則を守れることにある」(同72ページ)と言います。

**********************

さて、ここで再び国立国会図書館の組織を基にシリーズ・システムを考えてみたいと思います。現在の同館の組織図は下記の通りです。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/outline/organizationtree.html

国立国会図書館では2009年度に「デジタル情報資源ラウンドテーブル」を設置しました。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/roundtable.html
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/h21-h23roundtable.html

発足時から2011年9月まで関西館電子図書館課が、同年10月以降は電子情報部電子情報企画課が事務局を担当しています。これは国立国会図書館の組織の中に2011年10月電子情報部が新設されたことに対応しているようです。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/h21-h23roundtable01.pdf
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/H23honkaigi_Tanaka.pdf (スライド4枚目)

シリーズシステムを考える(NDLを例に)

 

2009年度に関西館電子図書館課内に設置された「デジタル情報資源ラウンドテーブル」全体事務局は2011年10月に電子情報部電子情報企画課に移動しています。つまり「デジタル情報資源ラウンドテーブル」運営のための文書作成主体は関西館電子図書館課から電子情報部電子情報企画課に移動したと言えます。

シリーズ・システムでは、「デジタル情報資源ラウンドテーブル」運営文書(仮称)というシリーズに関して「名称」「シリーズ開始日」「シリーズ終了日」「内容開始日」「内容終了日」「機能」「数量」「物理的特徴及び利用上の技術的要請」「記述」「評価選別」「累積」「管理歴」「編成方法」「管理番号」「公開の可否」「著作権及び複写」「言語」「検索手段」「所在地」「複製」といった項目を記述します。一方、エージェンシー(この場合は、関西館電子図書館課と電子情報部電子情報企画課それぞれ)に関して、「名称」「開始日」「終了日」「権限根拠」「所在地」「記述」「機能」といった項目を記述します。そしてシリーズに関する記述と、エージェンシーに関する記述をリンクさせることによって作成者と文書の関係を正確に表現することが可能となります。

**********************

国際アーカイブズ評議会(ICA)議会・政党のアーカイブズ・アーキビスト部会(SPP)でも述べたとおり、現在の日本の公文書管理法は国の行政機関のみを対象としたもので、立法機関の一部である国立国会図書館には適用されません。法令に基づいた組織アーカイブズの管理と公開の実現がいつになるのかはわかりませんが、自らが生みだした文書とアーカイブズを、確実に未来の世代に残して行ってほしいと思います。そして利用を可能に、また容易にするための編成と記述、目録作成を実現してもらいたいものです。

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国文学研究資料館編『アーカイブズの構造認識と編成記述』(2014年)目次

14 土曜日 6月 2014

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シリーズ, シリーズシステム, 編成, 記述, 構造

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1980年代以降今日まで日本のアーカイブズ学を牽引してきた国文学研究資料館が新たに刊行した『アーカイブズの構造認識と編成記述』の目次を紹介します。

本書によると、アーカイブズ学の基本は、「アーカイブズ資源をその出所(発生母体)との関連で具体的に表現するための分析」(本書3ページ)です。近年までこの分析はアーカイブズ資源(かつては記録資料といわれることが多かったように思います)の構造的把握の問題とされてきたものです。本書では「構造認識を前提に、編成記述に関する新たな展開のための可能性を探ったものである」(同4ページ)と編著者を代表して大友一雄氏が述べておられます。

[書誌情報]

タイトル:アーカイブズの構造認識と編成記述
編著者:国文学研究資料館
出版者:株式会社 思文閣出版
価格:6,700円 (税別)
刊行年月:2014年3月
ISBN:978-4-7842-1736-6
出版者ページ:
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/shosai.php?code=9784784217366
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/pamphlet/9784784217366.pdf

 

[目次]

■序 論 本書刊行のねらい 大友一雄(国文学研究資料館)

■第一編 アーカイブズの編成記述:理論と動向

アーカイブズ機関における編成記述の動向と課題:都道府県文書館の目録と検索システムの状況から
太田富康

アーカイブズの内的秩序構成理論と構造分析の課題
柴田知彰

アーカイブズ編成・記述の原則再考:シリーズ・システムの理解から
森本祥子

■第二編 アーカイブズの構造認識と編成記述論

日本近世・近代在地記録史料群の階層構造分析方法について
渡辺浩一

商家文書の史料群構造分析:松代八田家文書を事例に
西村慎太郎

名主家文書における文書認識と目録編成:分散管理と情報共有の視点から
工藤航平

近現代個人文書の特性と編成記述:可変的なシリーズ設定のあり方
加藤聖文

組織体の機能構造とアーカイブズ編成:大学アーカイブズを中心に
清水善仁

■第三編 近世の記録管理とアーカイブズ

転封にみる領知支配と記録:編成記述のための歴史学的アプローチの可能性
大友一雄

近世の商家と記録管理
西向宏介

萩藩士家における「御判物・御証文」の保存と管理
山﨑一郎

近世石清水八幡宮の神人文書と文書認識:分散管理と情報共有の視点から
東 昇

近世アーカイブズの紙質調査と組織体の料紙
青木 睦

■あとがき

■執筆者紹介

**********************

本書で分析されている編成記述が企業組織のアーカイブズの現場で適用されているとは考えにくいでしょう。しかしながら、現代に生きる企業のアーキビストにとっても、森本氏、加藤氏、清水氏、西向氏らの各論文は組織アーカイブズの管理にとって少なからぬ示唆を与えてくれるものと感じました。加藤氏の論文は個人文書に関わるものですが、企業の創業者や、実業界のみならず政治や行政でも何らかの役割を果たした経験を持つ実業家の記録文書を扱う際の参考になるでしょう。

なお、海外のアーカイブズの利用経験の豊富な加藤氏の次の指摘は、日本の(企業アーカイブズを除く)アーカイブズの特色の一面をよくあらわしていると思います。

「アメリカを除くヨーロッパのアーカイブズではISAD(G)を前提としつつも最低限の記述しかないきわめて簡略な目録(国際赤十字委員会など)、自前のシステムとISAD(G)を融合したもの(スウェーデン国立公文書館など)、または第二次世界大戦前に作成されたカード目録をそのまま利用しているもの(国際連盟アーカイブズ)などであって、それぞれの組織の事情に応じたきわめてプラグマティズムな発想で目録が位置付けられているといえる。また、ここでは欧米のみを事例としたが、ロシアやアジア諸国にまで目を広げると目録は単なるツールでしかなく、日本の精緻化した目録、またはそれをめぐる議論は世界的にも異質である。」
(加藤聖文「近現代個人文書の特性と編成記述:可変的なシリーズ設定のあり方」197ページ)

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復元されたソウルの清渓川

アーカイブズ目録記述例としてのNDL(国立国会図書館)の階層構造の考え方

20 火曜日 5月 2014

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シリーズシステム, フォンド, 目録, 階層構造, 記述, NDL, 国立国会図書館

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NPO知的資源イニシアティブ『これからのアーキビスト:デジタル時代の人材育成入門』(2014年)目次ご紹介の際、組織の目録記述の例として上げた国立国会図書館(NDL)の階層構造に関して、ご意見をいただきました。

私はNDL全体を「スーパーフォンド」に設定しました。いただいたご意見では、

「スーパーフォンドに関する単一の定義はないけれども、シンプルな階層構造では解決できない場合に便宜的に使うものという感じがするので、今回の事例のように、シンプルにNDLという単一の組織の話であれば、フォンドでいけると思います。フォンドがNDL、部がサブフォンド、課がサブ・サブ・フォンド、でいいのではないでしょうか」

ということでした。つまり下のような階層構造となります。

NDLフォンド再考

アーカイブズの目録記述方法には「シリーズ・システム」という考え方もあります。シリーズ・システムについては下のtogetterを参照してください。
http://togetter.com/li/89658

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