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1980年代以降今日まで日本のアーカイブズ学を牽引してきた国文学研究資料館が新たに刊行した『アーカイブズの構造認識と編成記述』の目次を紹介します。
本書によると、アーカイブズ学の基本は、「アーカイブズ資源をその出所(発生母体)との関連で具体的に表現するための分析」(本書3ページ)です。近年までこの分析はアーカイブズ資源(かつては記録資料といわれることが多かったように思います)の構造的把握の問題とされてきたものです。本書では「構造認識を前提に、編成記述に関する新たな展開のための可能性を探ったものである」(同4ページ)と編著者を代表して大友一雄氏が述べておられます。
[書誌情報]
タイトル:アーカイブズの構造認識と編成記述
編著者:国文学研究資料館
出版者:株式会社 思文閣出版
価格:6,700円 (税別)
刊行年月:2014年3月
ISBN:978-4-7842-1736-6
出版者ページ:
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/shosai.php?code=9784784217366
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/pamphlet/9784784217366.pdf
[目次]
■序 論 本書刊行のねらい 大友一雄(国文学研究資料館)
■第一編 アーカイブズの編成記述:理論と動向
アーカイブズ機関における編成記述の動向と課題:都道府県文書館の目録と検索システムの状況から
太田富康
アーカイブズの内的秩序構成理論と構造分析の課題
柴田知彰
アーカイブズ編成・記述の原則再考:シリーズ・システムの理解から
森本祥子
■第二編 アーカイブズの構造認識と編成記述論
日本近世・近代在地記録史料群の階層構造分析方法について
渡辺浩一
商家文書の史料群構造分析:松代八田家文書を事例に
西村慎太郎
名主家文書における文書認識と目録編成:分散管理と情報共有の視点から
工藤航平
近現代個人文書の特性と編成記述:可変的なシリーズ設定のあり方
加藤聖文
組織体の機能構造とアーカイブズ編成:大学アーカイブズを中心に
清水善仁
■第三編 近世の記録管理とアーカイブズ
転封にみる領知支配と記録:編成記述のための歴史学的アプローチの可能性
大友一雄
近世の商家と記録管理
西向宏介
萩藩士家における「御判物・御証文」の保存と管理
山﨑一郎
近世石清水八幡宮の神人文書と文書認識:分散管理と情報共有の視点から
東 昇
近世アーカイブズの紙質調査と組織体の料紙
青木 睦
■あとがき
■執筆者紹介
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本書で分析されている編成記述が企業組織のアーカイブズの現場で適用されているとは考えにくいでしょう。しかしながら、現代に生きる企業のアーキビストにとっても、森本氏、加藤氏、清水氏、西向氏らの各論文は組織アーカイブズの管理にとって少なからぬ示唆を与えてくれるものと感じました。加藤氏の論文は個人文書に関わるものですが、企業の創業者や、実業界のみならず政治や行政でも何らかの役割を果たした経験を持つ実業家の記録文書を扱う際の参考になるでしょう。
なお、海外のアーカイブズの利用経験の豊富な加藤氏の次の指摘は、日本の(企業アーカイブズを除く)アーカイブズの特色の一面をよくあらわしていると思います。
「アメリカを除くヨーロッパのアーカイブズではISAD(G)を前提としつつも最低限の記述しかないきわめて簡略な目録(国際赤十字委員会など)、自前のシステムとISAD(G)を融合したもの(スウェーデン国立公文書館など)、または第二次世界大戦前に作成されたカード目録をそのまま利用しているもの(国際連盟アーカイブズ)などであって、それぞれの組織の事情に応じたきわめてプラグマティズムな発想で目録が位置付けられているといえる。また、ここでは欧米のみを事例としたが、ロシアやアジア諸国にまで目を広げると目録は単なるツールでしかなく、日本の精緻化した目録、またはそれをめぐる議論は世界的にも異質である。」
(加藤聖文「近現代個人文書の特性と編成記述:可変的なシリーズ設定のあり方」197ページ)
復元されたソウルの清渓川