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本ブログの「アーカイブズ目録記述例としてのNDL(国立国会図書館)の階層構造の考え方」末尾で
「アーカイブズの目録記述方法には「シリーズ・システム」という考え方もあります。シリーズ・システムについては下のtogetterを参照してください。
http://togetter.com/li/89658」
と記しました。togetterでまとめた2011年1月15日開催の日本アーカイブズ学会研究集会「アーカイブズの構造を読み解く-編成・記述論の現在―」での森本祥子さんの発表「オーストラリア・シリーズ・システムの可能性について」が論文として刊行されました。
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著者:森本祥子
タイトル:アーカイブズ編成・記述の原則再考:シリーズ・システムの理解から
(国文学研究資料館編『アーカイブズの構造認識と編成記述』思文閣出版、2014年、所収)
出版者ウェブページ:
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/shosai.php?code=9784784217366
http://www.shibunkaku.co.jp/shuppan/pamphlet/9784784217366.pdf
関連ブログページ:
https://archiveskoubou.wordpress.com/2014/06/14/nijl-archives-20140331/
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[目次]
はじめに
一 シリーズ・システム
(1)前史:イギリスの伝統からの出発
(2)シリーズ・システム成立の経緯
(3)シリーズ・システムの基本的考え方
二 「恩給裁定原書」を素材とした記述例
三 「非」現代組織運営文書の管理におけるシリーズ・システムの有用性
おわりに
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従来、記録資料(記録としてのアーカイブズ)の記述には、ICAが提唱する「国際標準記録史料記述:一般原則」(General International Standard of Archival Description: ISAD (G))に基づく編成記述が標準的なものと考えられてきました。
ISAD(G)に基づく編成記述の例を分かりやすく説明した文献として次のものをあげたいと思います。
牟田昌平「本格的デジタルアーカイブを目指して : アジア歴史資料センターの実験」
一般社団法人情報処理学会『情報処理学会研究報告. 情報学基礎研究会報告』 2003(112)、 33-44、2003-11-13
http://ci.nii.ac.jp/els/110002911492.pdf?id=ART0003258146&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1402737587&cp=
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002911492/
小川千代子「ISAD(G)の実装 : アジア歴史資料センターの階層検索システム」
記録管理学会『レコード・マネジメント : 記録管理学会誌』 (45)、 10-25、2002-11-30
http://ci.nii.ac.jp/els/110003840749.pdf?id=ART0005051707&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1402754939&cp=
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003840749
牟田論文の39ページ「図表4 各階層と各所蔵機関の目録構造比較対照表」、小川論文17ページ「第2図 資料の階層構成図」が示すように、ISAD(G)は出所である記録作成組織の階層性に応じた記録の原秩序を目録上で表現する方法と考えられます。
このような資料の編成記述・目録作成は、組織や業務が固定化されている場合には有効なのですが、記録を生み出す組織の改編が頻繁になってきた場合、階層構造の提示が困難となります。この点について森本氏は次のように述べます。
「組織変遷が頻繁に発生する現代の組織運営文書の場合には、文書の作成者と文書との関係は流動的であり、ある業務にともなって文書が作成され始めた時と、その業務が終わって文書のまとまりができあがった時とでは、作成組織が変わっている、ということは珍しくない。ある業務とそれにともなって作成される文書シリーズは一貫しているにもかかわらず、文書の直接的作成者(たとえば、課や係といった単位)はいうまでもなく、フォンド・レベルの作成者も変わる(省庁名が変わった、市町村合併が行われた、会社が吸収合併された、など)ことがある。このような場合は、作成者と資料とは「1対1」対応との前提に立ち、単一の出所のもとにすべての文書を関連づけるというツリー型の階層構造では、作成者と文書の関係を正確かつわかりやすく表現することはむずかしい。」
(森本祥子「アーカイブズ編成・記述の原則再考:シリーズ・システムの理解から」71~72ページ)
そこで森本氏が紹介するのは、オーストラリアで開発された「シリーズ・システム」と呼ばれる手法です。この方法では、文書の作成者(エージェンシー)に関する記述と、文書(シリーズ)に関する記述を別々に作成し、必要に応じて両者の記述をリンクさせます。この手法は森本氏によると、
「見かけ上、作成者と文書についての記述が切り離されるために出所原則が崩されたように見えるが、その本質は真の意味での出所原則を守れることにある」(同72ページ)と言います。
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さて、ここで再び国立国会図書館の組織を基にシリーズ・システムを考えてみたいと思います。現在の同館の組織図は下記の通りです。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/outline/organizationtree.html
国立国会図書館では2009年度に「デジタル情報資源ラウンドテーブル」を設置しました。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/roundtable.html
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/h21-h23roundtable.html
発足時から2011年9月まで関西館電子図書館課が、同年10月以降は電子情報部電子情報企画課が事務局を担当しています。これは国立国会図書館の組織の中に2011年10月電子情報部が新設されたことに対応しているようです。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/h21-h23roundtable01.pdf
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/H23honkaigi_Tanaka.pdf (スライド4枚目)
2009年度に関西館電子図書館課内に設置された「デジタル情報資源ラウンドテーブル」全体事務局は2011年10月に電子情報部電子情報企画課に移動しています。つまり「デジタル情報資源ラウンドテーブル」運営のための文書作成主体は関西館電子図書館課から電子情報部電子情報企画課に移動したと言えます。
シリーズ・システムでは、「デジタル情報資源ラウンドテーブル」運営文書(仮称)というシリーズに関して「名称」「シリーズ開始日」「シリーズ終了日」「内容開始日」「内容終了日」「機能」「数量」「物理的特徴及び利用上の技術的要請」「記述」「評価選別」「累積」「管理歴」「編成方法」「管理番号」「公開の可否」「著作権及び複写」「言語」「検索手段」「所在地」「複製」といった項目を記述します。一方、エージェンシー(この場合は、関西館電子図書館課と電子情報部電子情報企画課それぞれ)に関して、「名称」「開始日」「終了日」「権限根拠」「所在地」「記述」「機能」といった項目を記述します。そしてシリーズに関する記述と、エージェンシーに関する記述をリンクさせることによって作成者と文書の関係を正確に表現することが可能となります。
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国際アーカイブズ評議会(ICA)議会・政党のアーカイブズ・アーキビスト部会(SPP)でも述べたとおり、現在の日本の公文書管理法は国の行政機関のみを対象としたもので、立法機関の一部である国立国会図書館には適用されません。法令に基づいた組織アーカイブズの管理と公開の実現がいつになるのかはわかりませんが、自らが生みだした文書とアーカイブズを、確実に未来の世代に残して行ってほしいと思います。そして利用を可能に、また容易にするための編成と記述、目録作成を実現してもらいたいものです。