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博物館が所蔵する文献資料の整理方法に、アーカイブズ学における記述標準ISAD(G)を適用することを検討した論稿をご紹介します。

富田三紗子「博物館が所蔵する文献資料の整理におけるISAD(G)の考え方の応用:大磯町郷土資料館における整理方法を検討して」(2014年)

[書誌情報]

著者:富田 三紗子(とみた みさこ)

タイトル:博物館が所蔵する文献資料の整理におけるISAD(G)の考え方の応用:大磯町郷土資料館における整理方法を検討して

掲載誌名:年報[大磯町郷土資料館]

巻号:平成25年度

発行者:大磯町郷土資料館

掲載ページ:44‐51

[目次]

1. はじめに

2. 当館開館前から平成24年度までの文献資料の整理

3. ISAD(G)の考え方による今後の整理方法の検討

4. おわりに

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本稿は、「はじめに」で、博物館資料論における博物館資料の整理・分類は、それぞれの研究領域での、資料の特性とその背景にある個別学問の資料論に対応して確立していくとされていることを指摘しています。このような博物館資料論によれば、文献資料の整理にあたっては、すでのその整理の方法が確立しているアーカイブズ学の方法が参考になると考えられます。そして、本稿ではアーカイブズ学における記録資料記述の標準である、ISAD(G)=General International Standard Archival Descriptionを用いて、著者が働く大磯町郷土資料館所蔵の文献資料を整理する方法が示されています。

(この試みの背景にあるのは、収蔵庫の収蔵率が100%近くに達し、抜本的に収蔵資料を整理することが求められているためであると記されています。)

著者は”文献資料”に関し、「博物館において収集、保管、展示、調査研究の対象とする資料を博物館資料とし、その博物館資料の内、歴史分野において活用される資料を歴史資料、 歴史資料の内、文字によって記録されている資料を文献資料とする」と定義します。また”文献資料”は、「アーカイブズ学における、アーカイブズ=記録史料とほぼ同義とする」、”記録史料の記述”とは「記録史料を管理し、参照を容易にするために、検索手段の手がかりとなるように記録史料の情報を書き記すという、アーカイブズ学の用語である」と説明したうえで、議論を始めています。

次に、本稿は、現在同館が所蔵している文献資料状況をたどり、平成2年に開始された町史編さんによる整理が行われたものと、それ以後に取得した未整理のものが混在している状況であることを確認し、以後具体的に所蔵文献資料へのISAD(G)の適用方法を検討しています。そして、資料の階層構造(フォンド、シリーズ、ファイル、アイテム)ごとに情報を記述していく「マルチレベル記述規則」であるISAD(G)を同館所蔵資料整理に適用するにあたっては、ユーザーへの迅速な提供のために、フォンドとアイテム・レベル記述を優先するという方針で作業することにしたといいます。

本稿の意義は、地域の博物館が抱える問題に対する、ひとつの解決策を示している点にあります。以下、長くなりますが原文を引用します。

「基礎的自治体が設置する地域博物館は、だいたいが小規模館であり、専門職の学芸員が配置されたとしても、各研究分野に1人確保できればいい方で、文献資料を扱うことができる担当者が複数配置されることはまず想定し難い。また、その1人の担当者が退職するときに、後任者への引継ぎを考慮して、ある程度の期間を重複して雇用することも、日本においてはあまり配慮されていない。すなわち、1人の担当者が退職するまで長年にわたって一つの業務を抱え、その者が退職した瞬間、長年の蓄積がなくなるという現実がある。業務の継続性を考えたとき、担当者が得た情報を記録化することがまず重要だが、地域博物館では今までこの点を考慮することがほとんどなかった。ISAD(G)の考え方に基づく資料調書は項目が多く、記述が困難であることが指摘されることもあるが、実際には、それらの項目はいずれも大切な情報であり、資料群の出所や来歴などを調書として残すことが、担当者が館を離れた後も、業務を継続する礎を築くことになる。ISAD(G)の記述要素を意識して文献資料の整理を行うことは、博物館運営において有益な方法と言えるだろう。」(47ページ)

上の引用には、業務の継続性を確保するために標準に則った資料の記述を行うことは、ムダの削減にダイレクトにつながることが示されています。限られたリソース、あるいはリソースが縮小しつつあるなかで、なによりも優先すべき事項ではないでしょうか。事業の継続性を支える資料整理の方法という点で、本稿は、一時に比べて議論が低調になっているようにもみえる、記録資料記述標準ISAD(G)の意義を改めて訴える論文です。

余談ですが、先日(11月5日)開催された企業史料協議会第3回ビジネスアーカイブズの日(テーマ「社史からアーカイブズへ」)では、各社それぞれの方法でアーカイブズの運営、文書がアーカイブズに流れてくるような仕組み作りに取り組んでおられるなぁという感想を持ちました。一方、人材の養成や引き継ぎが難しい、というお話が印象に残りました。必ずしも資料の記述方法に直接関係するわけではありませんが、企業においても「事業・業務の継続性」が大きな課題と認識されていることは、本稿の問題意識と繋がるものと感じました。
http://www.baa.gr.jp/news_h.asp?NoteAID=12

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大磯町郷土資料館発行の「年報」の所蔵状況は下記の通りです。

カーリルローカルで神奈川県内の公共図書館を検索すると、いくつかの館で平成24年度まで所蔵が確認できます。
http://calil.jp/local/search?csid=kanagawa&q=%E5%B9%B4%E5%A0%B1%E3%80%80%E5%A4%A7%E7%A3%AF%E7%94%BA%E9%83%B7%E5%9C%9F%E8%B3%87%E6%96%99%E9%A4%A8

CiNii
http://ci.nii.ac.jp/ncid/AA12255831

NDLサーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000071769-00
(平成23年度まで)

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大磯町 郷土資料館のページ
http://www.town.oiso.kanagawa.jp/bunka_sports/bunka/kyodosiryokan/

大磯町郷土資料館刊行物一覧ページ(ただし「年報」は含まず)
http://www.town.oiso.kanagawa.jp/bunka_sports/bunka/kyodosiryokan/1358819527406.html

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2012-12-05 13.39.25大磯町郷土資料館ISAD(G)