欧米やオーストラリアにおけるアーカイブズ利用者の多数を占めるのは自分の先祖のことについて調べる一般の市民です。このような家系調査の存在が、アーカイブズの存在を社会的に支えているとも言えます。この点に着目して、本論文では、「日本のアーカイブズで欧米のような家系調査をすることは可能か。またアーカイブズはそれを奨励すべきか」(90ページ)という問いを立てて検討しています。
この問いに対する著者の結論は、「アーカイブズの本質が十分理解されているとは言いがたい現在の日本では、無闇に家系調査を奨励することは危険だが、同時に家系調査を契機とする一般利用が増えることによって、アーカイブズに好ましい刺激が与えられる可能性があることも理解すべき」(96ページ)というものです。
情報公開法や個人情報保護法がアーカイブズの公開に与えた影響についても言及されています。
何を公開し、何を非公開とするのかは、文化によっても異なれば、時代によっても変わってきます。その中で筆者が、アーカイブズの在り方=原則として、「アーカイブズは、いまの社会をきちんと後世に伝えるためにはどんな資料を残せばいいのかを第一に考えるべきであり、その中の何を公開するかはその時々の社会と相談しながら決めればよい」(97ページ)と述べている点に共感をおぼえます。
[書誌情報]
著者:森本 祥子(もりもと さちこ)
タイトル:日本のアーカイブズで家系調査は可能か:課題整理と可能性の探求
掲載誌名:海港都市研究
出版年:2010年3月
巻号:5
掲載ページ:89-97
[目次]
はじめに
Ⅰ はじめに:旧メルボルン監獄の衝撃
Ⅱ 個人情報の取り扱いに関する法制度とアーカイブズの対応
Ⅲ 日本における家系調査の可能性
1 個人に関する情報へのアクセス
2 家系調査支援に伴う問題点と利点
Ⅳ 終わりに
[本文]
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/81002114.pdf
**********************
〈参考ページ〉
神戸大学学術成果リポジトリ
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003kernel_81002114
CiNii
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007523402
NDLサーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000024-I004639259-00
**********************